ジャケット用イラスト

※ジャケット写真は検討用デザイン(実際に発売されるデザインとは一部異なります)
© 日活株式会社

傘を掲げる男の背中
~『天使のはらわた 赤い淫画』(1981)~

 わたしのような短気な人間はジャングルジムを描くという作業工程を想像しただけで逃げ出したいところだが、これを画面の奥に山と築いており、そこに最初に驚かされた。一本の映画には無数のカットと衣装や道具が満ち溢れており、何を選んでポスターに落とし込むかは難しい仕事と思われるが、石井はジャングルジムと赤い傘を選び、その前に雨に打たれて濡れそぼった肉体を配置した。地面を叩く雨も勢いよく跳ね上がっているし、おんなの肌を流れくだる雨の滴も長々と糸を引いていてとても烈しく、動きのある絵となっている。

 映画のラストショットである石井フリーズの印象をつよく刻まれた観客の多くは、この絵の赤い傘を風に舞い上がった一瞬を捉えたものと見るかもしれないが、傘のおもてで雨が弾けているところを見ればこれはしっかと空中に静止して、おんなへ落ちる雨の幾らかを懸命に防いでいる、とも見て取れる。傘が受け止めた雨はそこで勢いを減じて丸い玉となり、ころころと落下しているのがいくつもいくつも認められるのは、重力にあらがい踏ん張っている何よりの証拠だ。

 どう見るかは読み手の自由だよ、といつもの調子で石井は笑うのだろうが、私としてはかつて石井が雑誌に寄せた一枚の墨絵を連結して思案を深めてみたい。墓石の前の地面にうつ伏し崩れ折れたおんなの頭上で、その宙空にすっくと浮いて雨をさえぎる霊的な傘が描かれていたのだったが、あれと相似するまなざしが認められる。(*1) 『ヌードの夜』の幕引き近くで出現した根津甚八演じる亡き行方(なめかた)の座像もそうだが、石井らしい優しさのこもった奇蹟を描いているのだと受け止めた。(*2) そうして絵を再度見つめていると、いつしか雨風にむけて傘を掲げている半透明の男の背中がうっすらと浮んでくるようだ。

 背景と道具、そこに肉体が重なり、総てがまとまって支えていくのが石井隆の「こころ描き」である。まったくもって石井世界の代表みたいな一枚絵となっており見事と思う。


(*1) :「SMキング」 1973年11月号 目次裏
(*2) :フィルムに定着していない以上は「出現」なんて書きとややこしいのだけど、石井は霊体となった男のために大人ひとり分の空隙をソファーに作って撮影に臨んでおり、これはファンの間ではよく知られたエピソードだ。


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~『天使のはらわた 赤い眩暈』(1988)~

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